孤高の御曹司は授かり妻を絶え間なく求め愛でる【財閥御曹司シリーズ黒凪家編】
 ふっと口角を上げる黒凪さんを、翼さんは驚いたように見上げた後、「ふーん、了解」と了承した。

 あれよあれよと話が進み、どうやら私はエステを受けることになったらしい。もしかしたらこれは、多少なりとも綺麗にしてもらって叔父たちを見返してやろうという、彼の思惑のひとつなのかもしれない。

 ただただ彼らにおまかせしていると、黒凪さんが私の肩にポンと手を置く。

「俺は適当に昼食を済ませてくる。終わる頃にまた来るよ」
「え、あ、黒凪さん!?」

 彼はさっさと歩き出す。行っちゃうの!?と、なんとなく心細くなって手を伸ばしかける私の両肩を、今度は翼さんががしっと掴んだ。そのままくるりと店のほうに向きを変えられる。

「さあ、入って入って~。名前なんていうの?」
「あ……鮫島深春といいます。すみません、私エステ初めてで」
「そっか! 大丈夫、怖くないよ。優しくするから」

 そこはかとない色気を感じるイケボで、彼氏さながらのセリフを囁かれる。女性に対してドキドキするのも初めてだ……。

 なんだか危うい世界に流されそうな感覚を抱きつつ入った受付には、白く可憐な百合の花が飾られていた。
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