孤高の御曹司は授かり妻を絶え間なく求め愛でる【財閥御曹司シリーズ黒凪家編】
「……感謝を伝えていなかったのは、私も同じです」

 ぽつりと呟くと、皆の視線が集まる。

「これまで、この家に住まわせてくれてありがとう。学校に通えたのも叔父様たちのおかげだから、本当に感謝してる。でも」

 三人を見回して偽りのない感謝を口にした後、震える手をぐっと握る。

「私だってひとりの人間だから、冷たい態度はたくさん傷ついたし、悲しかった」

 私の意思なんて関係ないからと、ずっと我慢していた本音をやっと言えた。

 皆、怖気づいたような顔で私から目を逸らす。反省しているわけではなく、黒凪さんという第三者の前で咎められる決まりの悪さからかもしれない。だとしても、私は気持ちを伝えられただけでいいと思えた。

 黙って見守っていた黒凪さんは、その大きな手で守るように私の肩をそっと抱く。

「好きにすればいいとおっしゃっていましたので、さっそく深春さんはいただきますね。これから彼女は、私の大切な家族です」

 凍った心を一気に温めてくれるようなひと言に、私は目を見開いた。

〝大切な家族〟──そう認めてもらえることが、こんなに嬉しいなんて。戸籍上そうなるというだけの意味だとしても、嬉しい。

 急激に込み上げてくるものを堪えて俯く。いつぶりだろう、目頭が熱くなるのは。
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