孤高の御曹司は授かり妻を絶え間なく求め愛でる【財閥御曹司シリーズ黒凪家編】
 昼間とほぼ同じシチュエーションでふたりで外に出ると、生ぬるい夜風に出迎えられた。月明かりが穏やかで、まるで別世界のよう。

 門を出たところで私の肩から手を離した黒凪さんは、穏やかさを取り戻した声で言う。

「悪い、また連れ出して。今日のところは君を帰すつもりだったんだが、到底あのまま置いてはおけなかった」
「いいんです、これで。ありがとうございました」

 幾度となく救ってくれたことに感謝していると、彼はふいに足を止めて少し驚いたように私の顔を覗き込む。そして、長い指で私の目の下に触れた。

 彼の指と自分の頬が濡れていて、私も泣けたんだなと実感する。

 黒凪さんは両手で私の頬を包み、そこはかとなく憂いを帯びた面持ちで涙を拭う。

「つらかったな」
「いえ……これは嬉し涙です」

 小さく首を横に振ると、彼はキョトンとした。私がずっと欲しかった言葉をくれたのに、その自覚がないのだろう。
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