孤高の御曹司は授かり妻を絶え間なく求め愛でる【財閥御曹司シリーズ黒凪家編】
「ただの家政婦に答えられるわけないでしょう。そんなに奏飛様に気に入られたいのですか? 財産をモノにするために。あざといですねぇ」

 腕組みをして私の顔を覗き込んでくる沢木さんは、お義母様と同様に私を疑っているみたいなので、慌てて首を横に振る。

「いやいや、違います! 財産なんて興味ありません。人間の扱いをされて生きていける居場所があればそれでいいんです」
「それはまた極端な」
「ただ、本当にどうすればいいかわからなくて……男の人と一夜を過ごすこと自体初めてだから」

 冗談じゃなく困っている私は、勢いをなくして俯き気味になっていく。顔が熱くなるのを感じていると、沢木さんは訝しげに片眉を上げる。

「純情ぶってます?」
「違いますって!」

 私はバッと顔を上げて即座に否定した。毒舌家政婦さん、本当に遠慮がない。

 彼女は半信半疑な様子で、腕を組んだまましばし思案してから口を開く。

「悩む必要はございませんよ。奏飛様は跡継ぎを残すために深春様とご結婚されたのです。子作りは義務のようなものですから、あなたがなにもせずとも、抱きしめるなり押し倒すなりしてくるはずです」

 現実を突きつけてくる沢木さんの発言に、私の心も表情も強張った。
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