孤高の御曹司は授かり妻を絶え間なく求め愛でる【財閥御曹司シリーズ黒凪家編】
 ……そうだ、忘れかけていた。私は彼の階級を上げるためだけに必要とされているのだ。

 初夜にだって愛は必要ない。私があれこれ悩もうが奏飛さんには関係なくて、ただ行為ができればそれでいいのかもしれない。

「とはいえ、彼はきっとベッドでも紳士的でしょうから、愛されていると錯覚させてくれるかもしれません。どうぞ、素敵な初夜を」

 沢木さんは、嫌味なのかただ単に事実を言っているだけなのかわからないアドバイスを残し、綺麗に一礼して玄関を出ていった。心の中には虚しさと落胆の色が広がっていく。

 奏飛さんは私を大事に扱ってくれるから、普通の夫婦みたいになれるんじゃないかって勘違いしそうになっていた。そんな風に思っているのは、私だけかもしれないのに。


 肩を落としてリビングに戻ると、奏飛さんに先にお風呂に入るよう促された。

 大きな窓が開放的で温泉のような広いお風呂に浸かっても、先ほどと打って変わって気分は沈んでいる。沢木さんが用意してくれた、女子力高めのレースチュールのネグリジェに着替えても同じ。

 どうしてこんなに落ち込んでいるのだろう。素敵すぎる家でこれまでと正反対の待遇を受けさせてもらって、ちゃんと自分の存在意義はあるのに。
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