孤高の御曹司は授かり妻を絶え間なく求め愛でる【財閥御曹司シリーズ黒凪家編】
「黒凪家には昔から、夫婦となったふたりが初めて過ごす夜には契りを結ぶものだという決まりがあった。俺たちも、今夜がその初夜になるが──」
「わかっています。子供を授かることが、私の役目だと」

 なんとなく最後まで聞きたくなくて、彼の言葉を遮った。小さく深呼吸をして、こちらを見つめる彼に身体を向ける。

「覚悟はしています。どうぞ、抱いてください」

 心臓はバクバクと鳴っているが、なんとか平静を装い彼を見上げて告げた。

 奏飛さんはすぐに返答はせず、じっと目を合わせたまま。その数秒がやけに長く感じる。

 次の瞬間、膝の上で握っていた手に触れられ、ビクッと肩が跳ねる。

「こんなに震えていては抱けやしない」

 包み込む大きな手は温かいのに、彼の口から放たれたひと言は突き放されたようで、体温が一気に奪われていく気がした。

 抱いてもらえないなんて……私の存在意義がまたなくなってしまう。どうしよう、奏飛さんの力になれることはこれくらいしかないのに。

 ショックで目線が下がっていく。その時、垂れた髪をそっと掻き上げられ、そのまま優しく頬に手をあてがわれた。
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