孤高の御曹司は授かり妻を絶え間なく求め愛でる【財閥御曹司シリーズ黒凪家編】
「心配するな。俺が一から教えるから、徐々に慣らしていこう」
「……え?」

 意外な言葉が聞こえ、再び目線を上げた。奏飛さんの表情は変わらないが、瞳にはそこはかとない熱が帯びている。

「君には俺の子を産んでもらいたい。でも、怖がっているのに無理やり抱いて苦しめたりはしたくない」

 私に失望したわけではなく、むしろ気遣ってくれていたのだとわかって目を見張った。

 彼の思いやりは嬉しいけれど、契りを結ばないのはルール違反になるんじゃないだろうか。

「でも、初夜の決まりが……」
「あれは何十年も昔の話だ。今でも忠実に守る者はいないだろう。妻を自分のものにする口実として使う男はいるかもしれないが」

 ん? それってまさか、瑛司さん? 香苗さんと結ばれたくて、今もルールが厳格に守られている体を装っていたということだろうか。

 だとしたら彼は結構な策士だし、相当香苗さんに惚れているんじゃ。冷血そうに見えて中身は情熱的なのね……小籠包みたい。

 なんて変な考えは置いておいて、とりあえず初体験は延期になったようでほっとする。
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