転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
「お父さんは仕事だよね?」
「仕事のはずなんだけどね。さっき“紗良が帰ってくるよ”って連絡入れたら、俺が帰るまで絶対帰らせるなよ!って強く言われて…」
「そうなの?でもいつ帰ってくるんだろう。私そんなに遅くまでは待てないけど」
「え、なんで?まさか彼氏でもできた?」
「…そんなわけないでしょ。冗談でもお父さんに言わないでよ」
「分かってるわよ。あんたに彼氏が出来たなんて言ったら、それこそ大変なことになるわ」
逸生さんのことがバレないかと、若干ヒヤヒヤしながらも母と会話をしている時だった。
玄関のドアが開いた音が聞こえたかと思うと、バタバタと大きな足音がどんどん近付いてくる。
そしてリビングのドアが物凄い勢いで開かれたかと思うと「紗良ーーーー!」と驚くほど大きな声がリビングに響いた。
「おまっ、お前っ、今までどこに…!」
「あ、お父さん久しぶり」
「何で久しぶりに会ったのにそんなにドライなんだ?!そこも可愛いけど!」
「心配かけたみたいでごめんね。てか仕事どうしたの?まさか早退したんじゃ」
「するに決まってるだろ?!一刻も早くお前に会いたくてダッシュで帰ってきたぞ?!」
本当に走って帰ってきたのか、父はかなり息を切らしている。よく見れば汗だくな父は「仕事よりお前が大事!」と大声を出しながら私のそばまで駆け寄ると、その勢いのまま私に強く抱きついた。
抱きつかれるのは慣れているけれど、せめて汗を拭いてからにしてほしかったな。
「連絡つかないからアパートまで行ったらもぬけの殻だし、本当に心配であれからずっと生きた心地がしなくて…」
「お酒飲みながら龍馬伝見てたのに?」
「……生きててよかったーー!」
都合が悪くなるとすぐに聞き流す父に呆れていれば、母が後ろから「この子ももういい歳なんだから、あまり干渉しないであげて」と冷静につっこむ。
それすらも聞き流した父は「もう離さない」と重い言葉を呟くから、父に内緒で帰ればよかったと、少し後悔した。