転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
「紗良はいまどこで何してるんだ?何でずっと身を隠してた?反抗期か?ん?」
「…なんとなく」
「んーっ!可愛いから許すけど!お父さん寂しかったぞ!」
とりあえず汗拭いたら?とポケットからハンカチを出して差し出せば、父は「なんて完璧な女なんだ…」と瞳を潤ませながら汗を拭う。
「で、紗良はいまどこに住んでる?」
そして再びその話題に戻った父は、私の正面の席に腰を下ろすと、身を乗り出すようにテーブルに肘をつき真っ直ぐこちらを見据えてきた。
恐らく父は、私が吐くまで帰さないつもりだ。
「…友達のところ」
「友達?女か?女だよな」
「…新しい職場の人の部屋がね、ひとつ余ってて。ルームシェアさせてもらってるの」
「女友達とルームシェア。うん、いいじゃないか。今どきっぽくて。てか、その新しい職場はどこなんだ?」
「…心配しなくても、ちゃんとしたところだよ」
「…社名、お父さんに教えられないのか?」
「だってお父さん、職場まで来そうだもん」
「……………行かない」
「なにその間は。絶対うそじゃん」
「…そんなにお父さんに言いたくないのか?」
「うん、今はまだ。いつか言うから」
頑なに口を割らない私に、父は分かりやすくしゅんと肩を落とす。
その寂しげな姿に罪悪感を覚えていれば、父が追い討ちをかけるように「いいんだ、紗良が変な男に騙されてなければ、それでいいんだ…」と呟くから、かなり胸が傷んだ。
お父さん、隠してごめんね。
本当は同居人は男だし、しかも一応彼氏なんだけど。来年の春になれば全て終わるから、だからそれまでは、どうか静かに見守っていてほしい。