転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします

「紗良、お前もいい大人だし、お父さんもあまり口うるさく言いたくはないんだ。お前のやりたいようにやればいいと思うし、お父さんは応援する。でもお願いだから、変な男とくっつくのだけはやめてくれ」

「…うん、分かってるよ」

「坂本龍馬を超える男じゃないと認めないからな?紗良が見つけられないなら、お父さんが選んだ男とお見合いだぞ?」

「お父さん、その話なんだけど」


実は今日ここへやって来たのには、もうひとつ理由があった。その“お見合い”について、伝えたいことがあったからだ。

コーヒーカップに視線を落としながらぽつりと呟く私に、父は「ん?」と首を傾げる。ゆっくりと視線を上げ、上目がちに父を捉えると、父は「お見合いの話がなんだ?」と上体を前のめりにさせた。


「そのお見合い、来年の春はどうかなって」

「…え?」

「来年の春になったら、お見合いしてもいいよ」


その頃には、恐らく私はまたニートになる。あの部屋にも住めなくなるから、この家に戻るつもりだし。

そのため、お見合いをするならそのタイミングがベストだと思った。

出来ればお父さんが納得してくれそうな人を自分で見付けたかったけれど、それもあまり期待できそうにない。

好きな人と結婚することに憧れもあったけど、そもそも誰かを好きになれる気がしなかった。


「…紗良が…もうすぐお見合い…?やっぱ無理かも」

「何なのそれ。ちゃんと坂本龍馬探してきてよね」

「無理…娘はやらん…俺がお前と結婚する」


急に訳の分からないことを言い出す父に、会話を聞いていた母が「残念ならがあなたの相手は私ですよー」とすかさずツッコミを入れた。

その時ふと、逸生さんの顔が頭に浮かんだ。そういえば逸生さんは、今何をしているのだろう。

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