転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
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───紗良が消えた。
午後から“私用”とだけ伝えて会社を出た俺は、その足でジュエリーショップへ向かった。
そこでサプライズのプレゼントを買い、定時になる少し前に一度会社に戻った。そのまま紗良を車に乗せて、内緒で予約していたレストランに連れて行く予定だったからだ。
けれど、会社に紗良の姿はなかった。
予想外の出来事に焦った俺は、すぐに小山に問い詰めようとした。けれど運悪く奴は会議中だったため、仕方なく古布鳥さんに聞いてみれば「午後からお休みしたみたいよ」と言われ、唖然とした。
休むなんて、一言も聞いてないけど。
心の中でそう呟いた俺は、慌ててスマホを取り出した。けれど、なぜか画面は真っ暗。
そこでふと思い出した。プレゼントを買いに行く前、誰にも邪魔されないようにとスマホの電源をオフにしたことを。
深い溜息をつきながらすぐにスマホを立ち上げれば、そこには1件の不在着信の知らせが届いていた。相手は案の定紗良で、どうやら彼女は13時半頃、一度俺に電話をかけていたみたいだった。
紗良が連絡をくれてから、既に数時間が経っている。急いでかけ直してみたけれど、無機質な呼出音が耳に届くだけで、紗良は電話に出なかった。
体調でも崩したか?
それとも…逃げ出した?
いや、紗良はそんな無神経な女じゃない。俺が会社を出る時も、いつもと変わらない様子だったし。てことは、何か急用が出来たのかも。
そう自分に言い聞かせながらも、このまま紗良に会えなくなるんじゃないかと思うと、気が気じゃなかった。