転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
とりあえず会社を出た俺は、マンションまで車をぶっ飛ばした。その間も紗良に電話をかけ続けたけど、全く繋がらなかった。
部屋でぶっ倒れてたらどうしようとか、どこかで事故に巻き込まれてなければいいけどとか、考え出したら止まらなくて。
モヤモヤしながらもマンションに着き、最上階の部屋に駆け込んだけど、そこには紗良の靴もなければ、もちろん本人の姿もなかった。
ただ紗良の私物は全てそのまま置かれていたから、恐らく家出ではないのだろう。
それに安堵しつつも、買ってきたプレゼントはソファの上に放り投げ、紗良を探しに行くため再び部屋を出ようとした。
──その時だった。
「…あれ、逸生さん帰ってたんですね」
ドアノブにかけようとした手が空を切り、先に玄関のドアを開けた紗良がいつも通り無表情で現れたかと思うと、彼女は呑気に「おかえりなさい」と紡いだ。
「…紗良、お前どこ行ってたんだよ」
「え?…あ、もしかしてお休みをいただいたこと小山さんから聞きました?勝手にすみません。一応電話でお伝えしようと思ったんですけど、何故か繋がらなくて…」
紗良が淡々と喋っているけど、全部右から左に流れていく。
紗良が帰ってきた安堵と、それまでの焦りと、なんかもう色んな感情がぐちゃぐちゃになって、紗良の言葉を聞く余裕がなくなっていたから。
「電話、何で出なかった?」
「あれ、電話してくださったんですか?…あ、ほんとだ。移動中だったからからかな…全く気が付きませんでした」
スマホを確認した紗良が「すみません」と謝罪する。けれど、俺の心は簡単に落ち着いてくれないし、普段通りの紗良に苛立ちすら覚えてしまう。
「急にいなくなるから、めちゃくちゃ心配したんだけど」
「そうですよね。ごめんなさい」
「まじで焦った。このまま会えなくなったらどうしようかと…」
「…逸生さん?なんか様子が…っ」
紗良の言葉を遮るように彼女の手を引いた俺は、そのまま紗良を腕の中に閉じこめた。
紗良の背中に手を回し、肩に顔を埋める。思わず溜息をつけば、紗良の身体がぴくりと揺れた。
「逸生さん?」と控えめに放たれた声は、明らかに動揺していた。