転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
「これは…」
ファッションやトレンドに疎い私でも分かる。私の目に映っているロゴは、有名なジュエリーブランドの物だ。
朝家を出る時にはなかった気がするのに。ソファの上に無造作に置かれている袋の中には、プレゼント用にラッピングされた箱が入っていた。
恐らくこれは婚約者候補へのプレゼントだ。もしかして、私用ってこれのことだったのかな。
逸生さんは政略結婚の話を一切私にしてこないけれど、私が知らないところで着々と話が進んでいるということなのだろう。
とりあえずテーブルの上へ移動させようと、紙袋を持ち上げた時だった。
「…あっ、紗良。それ…」
バルコニーから戻ってきた逸生さんが私の手元を見て、焦ったような表情で近付いてくる。
「勝手に動かしてすみません。ここでは潰しかねないので、テーブルに移動させようかと…」
私のすぐそばで立ち止まった彼に「やっぱりお返ししますね」と紙袋を差し出す。
けれど逸生さんはそれを受け取ろうとせず、その代わりに今日一番の深い溜息を吐いた。
「…何でこうもキメられないかな」
「え?」
ぼそぼそと呟かれた声に首を傾げれば、逸生さんは「かっこ悪」と零しながらソファに腰を下ろす。
「紗良」
そして上目がちに私を捉えた逸生さんが「こっち来て」と手招きするから、怪訝に思いながらも素直に従えば、彼はやっと私の手から紙袋を取った。
そして袋の中に入っていた箱を、突然その場で開け始めるから、思わず目を見張った。
「逸生さん、それは婚約者に渡すやつなのでは…」
「ううん、これ紗良の」
え、私に?訳が分からずきょとんとする私に、逸生さんは「あっち向いて」と、背を向けるよう指示する。