転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします


「花火大会に誘われた」


休憩時間の喫煙所。
小山と二人きりになったタイミングで話を切り出せば「へえー」とやる気のない声が返ってきた。


「誰に?」

「紗良に決まってんだろ。なぁ、俺どうすればいい?恐らく紗良は浴衣を着ると思うんだけど、想像しただけで破壊力が…」

「…まぁ、似合うだろうな」

「おいこら紗良の浴衣姿を勝手に想像すんな」

「お前ほんとめんどくせえ男だな」

「はぁ…花火そっちのけで紗良に見入ってしまいそうだけど、俺耐えられると思う?あまりの可愛さにその場で手を出してしまわないか不安で仕方がない」

「それはやめとけ。嫌われんぞ」

「分かってるよ…でもどんな拷問だよ…死ぬかも」

「お前のことはどうでもいいけど、ちゃんと褒めてあげろよ?」

「……当たり前だろ」


昨夜、突拍子もなく花火大会に誘ってきた紗良は、俺が頷くと満足気に「楽しみですね」と一言残し、眠りについた。

そんな紗良とは反対に、俺は興奮してなかなか寝付けなくて。寝不足のせいか、今日は煙草が止まらない。

週末のことを考えただけで緊張するし、今日は朝からそわそわして、いつものように動画を見ても全然頭に入ってこない。重症だ。


「逸」

「なに」

「ずっと気になってたけど、さすがにもうした(・・)んだよな?」

「……した(・・)とは」

「アレだよアレ。セッ…」
「アレどころかキスすらしてねえけど」

「は?」


いや、まぁ頬っぺにはしたけど。でもあれは半分事故のようなものだし。

でもさすがに猛省した俺は、あれから一度も紗良にキスをしていない。

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