転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
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花火大会当日。昨日買ったばかりの白地に椿の柄が入った浴衣を持って、近くの美容院で着付けとヘアアレンジを済ませた私は、急いでマンションへ戻った。
「逸生さん、お待たせしました」
ソファに座っていた逸生さんの視線がゆっくりと此方に移る。その瞳が私を映した瞬間、彼はピタリと動きを止めた。
「…逸生さん?」
「…あ、おかえり。眩しすぎて一瞬誰が入ってきたのか分からなかった」
普段ヘアアレンジなんてしないし、浴衣に合わせてメイクも変えたからだろうか。どうやら私が別人に見えたらしい逸生さんは、ハッとした後、いつもの笑みを浮かべた。
「そろそろ出るか」と腰を上げた逸生さんも、ネイビーのシンプルな浴衣を着ている。“こういうのは雰囲気から楽しみましょう”と、私が半ば無理やり着せたからだ。
普段スーツを着ている逸生さんの浴衣姿は、砕けた感じがまたいつもと違う色気を放っていて、想像以上に似合っていた。
…普通にカッコイイ。
「下で車が待機してます。会場付近は渋滞が予想されるので、少し離れた場所で降りようと思うのですが…」
「うん、いいよ。そこからふたりで歩いて行こう」
“恋人らしくする”
実はこれが、私の今日のテーマになっている。
人生最後の彼女が欲しいと言った逸生さんに、少しでも恋人気分を味わってもらいたいからだ。
「逸生さん」
「ん?」
玄関に向かう背中に声をかければ、足を止めた逸生さんは「どうした?」と首を傾げる。
「…浴衣、似合ってますね」
普通の彼女は、彼氏にこんな台詞を言うに違いない。そう思いながら言ったけど、言葉通り、本当に浴衣が似合ってる。
でも恋人を意識しているせいか、何だか少し照れくさく感じた。
「…紗良も似合ってるよ」
少し緊張しながら言った私とは反対に、こういう台詞には慣れてるであろう逸生さんは、優しく目を細めながらさらりと放つ。
その余裕すらも、今日は一段と男らしく見えた。