転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします


傍から見れば、私達は本物のカップルだと思う。

こんなところ、もし誰かに見られたらどうしようと若干不安になったけれど、これだけ人で溢れていたら、みんな周りを気にしている余裕なんてないのかな。

逸生さんが堂々としているのも、それを分かった上でなのかも。

でも、もし私達が手を繋いでいるのがバレて、それが社長の耳に入ったりしたら…恐らく私はクビになるし、逸生さんの親子関係にまたヒビが入りかねない。

花火大会に誘ったのは私だけど、少し離れた静かな場所で見るべきだったのかも。


「紗良、屋台が見えてきたぞ」


そんな私を余所に、握っている手に微かに力を込めた逸生さんは、覗き込むように私と視線を重ね、「なんか食うか?」と尋ねてくる。


「それとも射的とか金魚すくいとかしてみる?」

「あ、いえ。荷物になりそうなものはやめておきます」

「荷物て」


もっと言い方あるだろ、と顔を近付けたまま破顔する彼は、いつもより幼く見える。そのあどけない笑顔に釣られて、思わず頬が緩みそうになった。

仕事の時の彼とは違って、屋台を捉えた彼の目がキラキラと輝いているように見える。

いつも飄々としている逸生さんだけれど、やっぱり“専務”というだけあって、計り知れないほどのプレッシャーを抱えているのかも。

だからこうして楽しそうな逸生さんを見ると、さっきまでの不安が消えていく。

逸生さんと来る、最初で最後の花火大会。余計なことは考えずに、私も彼と一緒に楽しもうかな。

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