転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
「逸生さんは気になる屋台がありますか?」
「んーそうだな。かき氷とか懐かしいかも」
「懐かしい…昔はよく食べてたんですか?」
「よくっていうか、昔じいちゃんと一緒に食べたことがあって。でもじいちゃん、ひと口で頭が痛くなったから、その後全部俺が食べたっていう」
「頭がキーンってなるやつですね」
「そうそう。まぁじいさんはそうなるわな」
かき氷屋さんに視線を向けながら目尻を下げる逸生さんの横顔を見つめる。
その表情は柔らかく、会長と本当に仲がいいのが伝わってきて、ちょっとほっこりした。
「思い出のかき氷、買ってきましょうか?恐らく今の逸生さんもキーンってなると思いますけど」
「おい俺を年寄り扱いすんな。お前と2つしか違わねえよ」
「あ、いえそういう意味で言った訳では…なんなら私もなりますし」
「てか、なんか紗良ってあんまかき氷が似合わないよな」
「…それ褒めてます?」
思わず怪訝な目を向けた、その時だった。
「──九条専務?」
賑やかな人混みの中、突如鼓膜を揺らした声に、私達の動きがピタリと止まった。
高くて可愛らしい、女性の声。オフィスでは聞いたことがないその声に、思わず息を呑む。
「紗良、ちょっとごめん」
袖、掴んでていいから。逸生さんが耳元でそう囁いたと同時、私の手を強く握っていた彼の手が、するりと離れた。
──何だか、嫌な予感がした。