転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
彼の熱がなくなった手で、咄嗟に逸生さんの袖を掴む。周りからは分からないよう、端の方を少しだけ。
はぐれないよう逸生さんの隣をキープしつつも、一体誰が現れたのだろうと、彼の視線を追ってその人物を探す。
と、そこには、見覚えのある顔があった。
そうだ、あれは確か入社した時に小山さんから受け取った資料の中、何度も目を通した1枚の書類。三人の顔が並んでいた中の、ひとり。
「まさかこんなところで専務にお会い出来るなんて」
逸生さんの目の前で足を止めたその人は、後ろに執事のような雰囲気の、一見クールな男の人を連れていた。
周りに人が多いせいか、逸生さんにぐっと距離を詰めた彼女は、甘ったるい声を放ちつつ、バサバサの睫毛を動かしながら瞬きを繰り返し、逸生さんを上目がちに捉える。
「何だか、運命感じますね」
──間違いない。この人は目黒さんとはまた別の婚約者候補のひとり、白鳥さんだ。
目黒さんと真逆で、タレ目がちの大きな目。色白で喋り方もおっとりしている。
そんな彼女のことを、睫毛が白鳥のような白鳥さんで覚えていたけど、本物は写真よりも更にバサバサしていた。
そんなことよりも、これって結構ヤバい状況な気がする。専務と秘書が浴衣姿で、しかもふたりきりでお祭りに来ているなんて、普通じゃありえないと思うから。
どうしよう。さっそく面倒な人に見つかってしまった。