転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
「白鳥さん、お久しぶりですね」
焦る私とは反対に、逸生さんはいつもの笑顔を浮かべながら白鳥さんに話しかける。すると白鳥さんは、嬉しそうに目尻を下げながら口を開いた。
「はい、お久しぶりです。専務もこういうところにいらっしゃるんですね」
「まぁ、はい。数年ぶりですけどね。久しぶりに祭りの雰囲気を味わいたくて」
「そうなんですね。…ちなみに、その方とおふたりで?」
そう放ったと同時、私を一瞥した白鳥さん。口調はゆったりと穏やかだけれど、その視線は微かに鋭く感じた。
「そういえば白鳥さんはご存知ないですよね。秘書の岬です。春に入社したばかりで」
「秘書…?」
「はい、私の秘書です。今日は数人の社員とここへ来ましたが、さっそくはぐれてしまって…白鳥さんはどこかで小山を見ませんでしたか?」
「小山さん…いえ、見かけませんでしたけど」
「ですよね。人が多すぎて、なかなか合流出来なくて…困ったなあ」
電話にも出ないし、アイツ何やってんだか。と、さらりと嘘を吐く彼を、じっと食い入るように見つめる白鳥さん。
どうやら彼女は小山さんとも面識があるのか、初めは疑いの目を向けていたけれど、小山さんの名前が出てきた瞬間、安堵の息を吐いたように見えた。
「それにしても専務、浴衣がよくお似合いで」
「ありがとうございます。せっかくなんで、格好から楽しもうかと」
「そういうの大事ですよね。あ、でも襟が少し乱れてますよ」
そう言って、白鳥さんは私に見せつけるように逸生さんの襟に手を添える。
すると「あ、すみません」とそれを受け入れる彼を見て、何故かチクッと胸が痛んだ。
だって、それは私の仕事だから。
けれど、モヤッとしたのも束の間。襟を整えても逸生さんから手を離そうとしない彼女を見て、襟は口実でただ単に白鳥さんが逸生さんに触れたいだけなのだと気付いた。