転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
「…逸生さん」
「ん?」
「私、逸生さんがお菓子好きだってこと知りませんでした」
逸生さんに出会って、たったの数ヶ月。だけど私は逸生さんの恋人であり秘書でもあるのに、白鳥さんの方が彼のことをよく知っているのがやっぱり悔しくて、思わず口にしてしまった。もっと逸生さんを知りたくなった。
「何それ、誰情報?俺別にお菓子好きでも何でもないけど」
「え?」
けれど、逸生さんから返ってきたのは予想外の言葉だった。唖然としながら「でもさっき白鳥さんが…」と放てば、彼は何か思い出したようにハッとする。
「あーあれね。前に白鳥さんから手作りのお菓子を貰ったことがあって、オフィスのメンバーに分けたんだけど。古布鳥さんがガトーショコラを美味しいって言いながら食リポしてたから、それをそのまま白鳥さんに伝えたら、俺の言葉だと勘違いしたみたいで…」
「そう…なんですね」
「子供の頃は普通に食べてたし、別に食べられないわけでもないけど。今はそんなに甘いものは食べないかな。てか、いつも一緒にいて俺がお菓子食べてるとこ見たことある?」
「…ないです」
「だろ。まぁでも、紗良が作ってくれるなら喜んで食べるけど」
冗談っぽく放った彼の笑顔を見た瞬間、スッと心が軽くなるのを感じた。
さっきまでのモヤモヤが、嘘みたいに消えてなくなった。何だかよく分からないけど、にやけそうなくらい嬉しい。
「…今度、作ってみますね」
「まじで?楽しみにしてる」
繋がれている手に力を込めれば、それに応えるように握り返してくれる。それにまた安心する自分がいた。