転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします


「…逸生さん」

「ん?」

「私、逸生さんがお菓子好きだってこと知りませんでした」


逸生さんに出会って、たったの数ヶ月。だけど私は逸生さんの恋人であり秘書でもあるのに、白鳥さんの方が彼のことをよく知っているのがやっぱり悔しくて、思わず口にしてしまった。もっと逸生さんを知りたくなった。


「何それ、誰情報?俺別にお菓子好きでも何でもないけど」

「え?」


けれど、逸生さんから返ってきたのは予想外の言葉だった。唖然としながら「でもさっき白鳥さんが…」と放てば、彼は何か思い出したようにハッとする。


「あーあれね。前に白鳥さんから手作りのお菓子を貰ったことがあって、オフィスのメンバーに分けたんだけど。古布鳥さんがガトーショコラを美味しいって言いながら食リポしてたから、それをそのまま白鳥さんに伝えたら、俺の言葉だと勘違いしたみたいで…」

「そう…なんですね」

「子供の頃は普通に食べてたし、別に食べられないわけでもないけど。今はそんなに甘いものは食べないかな。てか、いつも一緒にいて俺がお菓子食べてるとこ見たことある?」

「…ないです」

「だろ。まぁでも、紗良が作ってくれるなら喜んで食べるけど」


冗談っぽく放った彼の笑顔を見た瞬間、スッと心が軽くなるのを感じた。

さっきまでのモヤモヤが、嘘みたいに消えてなくなった。何だかよく分からないけど、にやけそうなくらい嬉しい。


「…今度、作ってみますね」

「まじで?楽しみにしてる」


繋がれている手に力を込めれば、それに応えるように握り返してくれる。それにまた安心する自分がいた。

< 123 / 324 >

この作品をシェア

pagetop