転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
「よし、デート再開しようか」
ちょっとついてきて。そう言って再び歩きだした逸生さんは、何故か人の波に逆らい会場からどんどん離れていく。
不思議に思いつつも手を引かれるまま歩いていくと、花火大会どころか遂に閑散とした道路に辿り着いてしまった。
「…えっと逸生さん、今どちらに向かってます?」
「いいからいいから」
私の問いかけを軽く受け流した逸生さんの横顔は、まるで冒険をしている少年のようにキラキラして見える。仕事中の貼り付けたような笑顔とは違い、心から楽しんでいるような彼に、不思議と私までわくわくしてしまった。
それから暫く歩き続けて、到着したのは小高い丘の上にある小さな公園。ブランコと滑り台しかないこの公園は穴場なのか私達の他に数人しかいなくて、その人達は遠くに見える花火大会の会場を眺めていた。
「ここなら誰にも邪魔されずに花火が見れる」
「ほんとですね。静かでいいです」
「だろ。やっぱ俺らにはこういうとこが合うかなって」
花火の打ち上げ時間まであと少し。空いていたベンチに腰掛けて、先程自販機で買っておいた飲み物を開けながら、逸生さんがドヤ顔を向けてくる。
「でも、どうしてこんな場所知ってたんですか?」
「…まぁ、昔は無駄にうろうろしてたから」
「なるほど、深夜徘徊ってやつですね」
「言い方」
吹き出すように笑った彼は、ペットボトルのキャップを閉めてそれをベンチに置くと、再び私の手を握った。
「…手、まだ繋ぐんですか?さすがにもうはぐれませんけど」
「いいだろ、こんな日くらい」
浴衣姿で歩き回ったせいか、身体が汗でベタベタしていて気持ち悪い。あまりの蒸し暑さに挫けそうになる。
それなのに、彼の熱は不思議と不快に感じなかった。