転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします


「キス、しないんですか」


今度はちゃんと聞き取れるよう、ハッキリ言葉を紡ぐ。そうすれば、逸生さんは視線を泳がせながら「ど、どうした急に」と、ぎこちなく呟いた。


「恋人になって結構経つのに、キスは結構前に頬にしていただいた1回のみ。それっきりキスしないのには、何か理由があるのかと思いまして」

「…理由……」

「人生最後の彼女を作ってやりたかったことは何ですか?一緒に住むこと?あとはたまにデートが出来たらそれでいい感じなんですかね」

「いや、そういう訳じゃ…」

「私の身体が目当てじゃないのなら、何が楽しくて私といるのかなって、不思議で仕方がなくて…」


最初はただの焦らしプレイだと思ってた。それならそれで私は全然いいのだけれど、せっかくの“人生最後の彼女”なのに、逸生さんはこのままで本当にいいのだろうか。

でもこれは所詮恋人ごっこ。そこまで踏み込む必要がないと言われたら、それまでなんだけど。


「やっぱり、そういうのは結婚相手のために取っておきたい…ってことですか?」

「え?」

「てことは、逸生さんはファーストキスもまだってことですかね?だとしたら、出過ぎたことを…すみませんでした」

「いやいや待って」


逸生さんは溜息混じりに煙を吐き、持っていた煙草を携帯灰皿に入れた。そのままぐっと距離を詰めてきたかと思うと「んなわけねーだろ」と、じろりと睨むような目で見下ろしてくる。

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