転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
「そうですよね。さすがにありますよね。私でもあるくらいだし」
「………」
「だったら、やっぱり偽物の恋人とはそこまで出来ないってことで…」
「紗良、勝手に話を進めんな。キスだろ?俺はキスくらい息するように出来るけど」
「そうなんですか?では、どうぞ」
「……」
今度は私から距離を詰め、少し背伸びしながら上目がちに彼を捉える。
その時、ふとここが公園であることを思い出し、躊躇しかけた。けれど、この小さな公園には街灯はほとんどない。辺りは暗いし、少しくらい大丈夫かなって思ったり。
でも、そんな私とは反対に、私を見下ろす逸生さんはきょとんとしたまま固まっていて。
恐らくこの感じだと…今日もお預けかな。でも私は出来ればもう少し、恋人として逸生さんとの距離を埋めたい。
「…逸生さん、もしかして照れてます?」
「照れてねーよ」
「だったらどうぞ」
「いや、どうぞって」
「あ、では私からしましょうか?」
「は?」
「でも逸生さん、身長が高いから届くか…なっ、」
目一杯背伸びをして、逸生さんに顔を近付けようとした、その時。突如腰を抱かれ、身体が前に傾いた。
そのまま彼に身体を預けた形になり、ムスクの香りが鼻先を掠めた。その直後、唇に軽く熱が触れた。
重なったのは、ほんの一瞬。驚きのあまり目を丸くすれば、至近距離で視線が絡む。
「そっちから誘うってことは、紗良は嫌じゃないってこと…だよな」
「……はい」
小さく頷けば、再び逸生さんの顔が近付いてくる。それに合わせて目を閉じれば、今度はさっきよりも長いキスが落とされた。
──微かに、煙草のにおいがした。