転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
返事をせず、否定も肯定もしない俺に、親父は表情を変えず続けて口を開く。
「会社にとってマイナスになったり、変な噂が立たったりしなければ、別にお前が何をしても私には関係ない」
「……」
「でも約束は忘れるなよ。相手に恥をかかせるような事があれば速攻クビだからな。これ以上お前の面倒は見れない」
「…分かってますよ」
──言われなくても分かってんだよ。
抑揚のない声でつらつらと言葉を紡ぐ目の前の男に、ついイラっとしてしまう。
人がせっかく昨日の余韻に浸っていたのに、どうして現実に戻そうとするかな。
「そうだ、お前今日は終日予定が入っていなかったな」
「……」
「もう少しでS社の社長と専務がいらっしゃる。専務がお前に会いたがっていた。ついでだから新しく出来たホテルのレストランを予約しておくよ。きっと専務も喜ぶだろう」
「…はい?」
「なんなら部屋も押さえておくから、そのまま1泊して帰るといい」
「…珍しく俺の為に動いてくれるんですね」
「何か問題でも?」
「別に」
随分勝手なことをする親父に、思わず溜息が漏れそうになった。
相変わらず温度のない目を向けてくる親父。こんなとこ、一刻も早く去りたい。
「いい機会じゃないか。未来のない女に時間をつぎ込んでないで、たまには花嫁候補と真摯に向き合いなさい」
分かってる。全部分かってることなのに、親父の言葉がグサグサと刺さる。今の俺は、紗良以外の女のことを考える余裕なんてないから。
てか、ホテルに泊まるのは俺ひとり?それとも…。
そうなると、紗良は今夜、俺の部屋にひとりきり。今日はずっと一緒にいたかったのに。
近付いたと思えば、また離される。
──早く、紗良に会いたい。