転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
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「S社の松陰寺と申しますが、九条専務はいらっしゃいますか?」
「申し訳ございません。ただいま席を外しておりますので、こちらでお待ちください」
突然オフィスにやってきたひとりの女性を応接室に通し、給湯室で淹れたコーヒーを出しながら彼女の顔を確認する。
「あなたははじめましての方ですよね」
「あ、はい。専務の秘書をしております、岬と申します」
目が合った瞬間、にっこりと微笑みながら声を掛けてきた松陰寺さんに、慌てて頭を下げる。
「わぁ、秘書さん。わたくし松陰寺と申します。ご存知かもしれませんが、一応S社の専務をしております。って言っても、九条専務と違って会社の何の役にも立てていないんですけど…」
自嘲ぎみに笑う彼女は、逸生さんの婚約者候補の最後のひとりだ。日焼けの目黒さん、白鳥睫毛の白鳥さんとは違い、驚くほど地味。そんな彼女を“とにかく地味な松陰寺さん”で覚えていた。
身につけている時計やバッグ、スーツは明らかに高級な物だけど、どこかのブランド物であろう眼鏡はウォーリーをさがせを連想させる丸メガネ。
黒髪で前髪パッツンおかっぱヘアに、眉毛はボサボサ、薄化粧を通り越してほぼスッピンの松陰寺さんは、お世辞にも逸生さんの隣が似合うとは言えない。