転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
「あの、秘書さんってことは、九条専務の好きな物とか把握されていますか?」
「好きな物…ですか」
突然もじもじと視線を泳がせながら尋ねてきた彼女は「はい。彼に何かプレゼントしたくて」と顔を綻ばせる。
「今夜、彼とふたりで食事に行く予定なんですけど…って、秘書さんならご存知ですよね」
「…え?」
「それで、出来ればその時にプレゼントをお渡ししたいと思っていて」
「……」
「あ、急にごめんなさいね。私、専務になって数年経つけど、まだ何も会社に貢献出来ていなくて…もし彼の婚約者になれたら、きっと皆も喜んでくれると思うから、いまとにかく必死で」
松陰寺さんが一生懸命何か喋っているけれど、彼女のある言葉が引っかかったせいで、私の耳に全然入ってこなかった。
“今夜、彼とふたりで食事に行く予定なんですけど”
私、そんな予定が入ったこと知らない。逸生さんから何も聞いていない。
ドクン、と急に胸が苦しくなって、思考が停止した。
「…みさき、さん?」
「…え、あ、すみません。好きな物…ですね。えっと、なんでしょう…すみません、煙草しか浮かばないです」
平静を装ってみるものの、上手く言葉が出てこない。
そんなことよりも、地味ながらもニコニコと目尻を下げる彼女が恋する乙女のようで眩しすぎて、早くこの場から立ち去りたかった。