転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
「煙草、ですか。確かに九条専務、よく煙草を吸われてるイメージですね」
よくってことは、この人はよく逸生さんに会っているということだろうか。それすらも知らなかった。
そういえば私が逸生さんの部屋に住み始めた頃、彼は毎晩のように出かけていた。会食だとか、接待だとか、色々な理由で出ていたけれど…もしかしてその時も松陰寺さんに会っていたのだろうか。
私に教えてくれないのは、秘書である前に恋人でもあるから?他の女性に会うなんて、さすがに言えなかった?
「…すみません、お役に立てなくて」
「いえ、いいんです。こちらこそごめんなさい。前にお会いした時に、好きな物をさりげなく聞いておけばよかったわね。はぁ、時を戻したいわ」
逸生さんを思い浮かべているのか、丸メガネの向こう側の瞳はうっとりとしている。
それを見て思ったのは、やっぱりみんな逸生さんに惚れていて、逸生さんと結婚するために必死だってこと。
それなのに私は、昨夜遂に彼とキスをしてしまった。
少し強引のようで、優しいキス。そこから逸生さんがいつもより少し甘くなって、寝る前にも…。
長い焦らしプレイからのご褒美は、想像の5億倍嬉しかった。そのせいか、昨日は眠りにつくまで楽しくて、今日も目覚めた時から柄にもなくうきうきしてて。
それなのに、今ので一気に現実に引き戻された気分。
間違っているのは私の方。それは分かっている。
それなのに、どうしてこんなにも胸が苦しくなるのだろう。