転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします


「お前大丈夫か。なんか前よりどんどん重くなってね?」

「だって紗良がどんどん可愛くなるんだから仕方ないだろ」


俺と逸のふたりしかいない喫煙所で、目の前の男は躊躇なく惚気ける。

その言葉をそのまま本人に伝えられたらいいのだけれど…まぁ、立場的に無理なんだろうな。

それにしてもこの男、かなり拗らせている。


「もっとドンと構えてないと嫌われるぞ。余裕のある男の方がモテるんだから」

「分かってる。だから紗良の前では余裕しか見せてないつもり」

「裏では1ミリも余裕ないのにな。なぁ、それ以上依存すんなよマジで」

「……分かってる」


本当に分かってんのかこの男。俺が見る限り、もう手遅れなんだが。


「てか、毎回これ聞くけど…さすがにやったよな?花火大会一緒に行ったくらいだし」

「……」


返事をしない逸を見て、全てを察した。
逸がここまで奥手とは…どうしたらここまで拗らせられるんだよ。


「安心して。キス()したから」

「むしろキスしたのにその先に進まなかったの凄いな。お前のその下半身、もう死んでんじゃね」

「そうだな、仙人を超えるかもしれない」

「どこ目指してんの」

「だって紗良が尊すぎるから…」


そう言って、一線を超えるのが怖いだけなんじゃねえの?だって、今でこれだ。きっとこれ以上深い関係になったら、離れられなくなるに決まってる。


「逸…俺とお前じゃ立場も何もかも違うから、全部は理解してあげられないかもしれないけど」

「……」

「頼むからひとりで抱えんなよ」


ありがと。力なく放った逸の横顔は、やっぱりどこか無理をしているように見えた。

もう、昔みたいな荒れた逸は見たくない。

ここで働き出してから、逸はかなり柔らかくなった。それに加え、岬さんに出会ってからは幸せオーラすら出てる。

それなのに…半年後、逸は一体どうなってしまうんだろう。

政略結婚なんて、なくなってしまえばいいのに。


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