転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします


「…ごめんなさい。私はその話、よく知らなくて」

「そうなんすね。秘書って何でも把握してるのかと思ってました」


さらりとそんな台詞を放った彼は、急にキョロキョロと辺りを見渡し始める。

ここは合同展示会というだけあって、たくさんの企業が集まっているからか活気が凄い。逸生さんを抜きにしても、坂本さんが学べる要素はたくさんあるのが分かる。


「坂本さん、ひとりで回ってきてもいいですよ。何かあれば連絡いただければ…」

「いいんすか?りょーかいっす」


あっさりと私のそばから離れていく彼の背中を見送り、思わず小さな溜息が漏れた。いつも逸生さんとふたりきりだからか、別の人がいるとつい気疲れしてしまうようだ。


「紗良」


どこかで休もうかと思っていた矢先、ワインの話が終わったのか、逸生さんが戻ってきた。

彼は私の目の前で足を止めると、眉をひそめながら私の周りに視線を動かす。


「あれ、りゅうまとかいう奴は?」

「坂本さんとは別行動することにしました」

「ふうん…」


こうしている内に、また逸生さんは誰かに捕まってしまうだろう。今度はどの人が逸生さんに話し掛けてくるかな、なんて呑気なことを考えていれば、突然距離を詰めてきた逸生さんが、私の耳元で口を開いた。


「紗良、今日あの男のこと、ちょっと見すぎじゃね?」

「…あの男?」

「坂本だよ。坂本りゅうま」

「坂本さんですか?そんなに見てましたかね。はぐれないように気を付けてはいましたが…」

「うん、見てた。それがなんかすげー嫌だ」


急に駄々をこねるように不貞腐れる逸生さんに、思わずきょとんとしてしまった。

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