転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします




「坂本さん、お家に着きましたよ。起きてください」


助手席のドアを開け、座席にぐったりとしている大きな身体を揺らせば、坂本さんの目が薄らと開いた。


「…ここ、どこっすか」

「坂本さんの住むアパートの前です。ひとりで降りられます?支えが必要ですか?」

「…ひとりでいけます」


伸びをしながらボソボソと呟いた彼は、まだ眠そうな目を擦り、ゆっくりと車から降りる。

その様子を見守りながら、自力で動いてくれたことに心の底から安堵した。こんな巨体、私ひとりじゃ支えられないし、だからといって先日還暦を迎えた運転手に助けを求めるのも気が引けるから。


「体調はどうですか」

「…よゆーっす」


そう言いながらも、まだ足元はふらふらしている。おぼつかない足取りで進んでいく彼の後ろをついて歩けば、ふいに振り返った彼と視線がぶつかった。


「…部屋、上がっていきます?」

「いえ、坂本さんが部屋に入るのを見届けたらすぐに帰ります」


ですよねーと放ちながら、再び歩き出した坂本さん。まだだいぶアルコールが残っているのか、若干呂律が回っていないように感じる。


「つか、よく俺の住所が分かりましたね。もしかして俺のファンだったり」

「こんなこともあろうかと、会社を出る前に調べておきました。お酒、弱いなら先に教えてくださいよ」

「…さーせん」

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