転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
「…どういう意味ですか?」
ぎこちなく返した私を、射抜くような目で見てくる坂本さん。何だか全て見透かされているようで、一気に脈が速くなる。
「専務とデキてますよね。今日1日ふたりを見てたら何となく距離が近かったし、専務の岬さんを見る目が明らかに違ったから」
「…気のせいですよ」
「隠さなくて大丈夫っすよ。別に誰にも言わないんで」
逸生さんの、私を見る目が…?そんな訳ない。それに私がドMだということも見抜けなかったくせに。それなのに、この人勘が鋭いというか、なんというか。
「……」
明日には坂本さんの記憶が全てなくなっていればいいのにと願いながら、否定も肯定もせず彼の次の言葉を待つ。
「で、なんで専務なんすか。あの人全然Sっ気なさそうなのに。それともふたりきりになった瞬間豹変するとか?」
豹変、とまではいかないけれど、自由奔放な彼に常に振り回されていることを、きっと坂本さんは知らない。
それに“泣かせたくなる”とか“縛られるより縛りたい”とかのSっ気たっぷりな発言もされたし、今も首元で光っているネックレスは彼から貰った“首輪”だったり、焦らしプレイからの不意打ちでキスしてくる強引さもあったりと、彼は私のMの部分を度々刺激してきた。
だから別に、私が逸生さんを好きになるのは意外でもなんでもない。
「あの人のどこに惹かれたんすか」
「…秘密です」
でも私が彼に惹かれた本当の理由は、そんなところじゃない。
彼の纏う空気や、幼い頃の苦労を感じさせない男らしさ、皆から好かれているところや私を肯定してくれる包容力が好きなんだと、最近気付いた。
彼のSっぽい言動に心が反応したのも、きっと逸生さんだったから。
出会った時から彼には他の人と違う何かを感じていた。もしかすると、その時から既に心を奪われていたのかもしれない。
転生並に違う世界に連れ出してくれた彼に、私は恋をしたのだ。