転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
「小山、あいつまじで何様?」
「なんかあの二人めちゃくちゃ仲良くなってんじゃん。お互いクールだし気が合うのかもな。てか結構お似合いじゃね?」
「え、無理。あいつもお前もクビにしたい」
「何でだよ俺は関係ねえだろ」
「紗良の近くにいる男全員抹消したいんだよ」
「…はいはい。とりあえず俺らは喫煙所行くぞ」
「待て、あいつらを二人きりにするのは危ないだろ」
「今はお前の方があぶねーよ」
ふたりでコソコソと何か話していると思ったら、逸生さんは小山さんに引きずられるようにオフィスから出ていってしまった。
ふたりが消えていった方をぼんやりと見つめていれば、ふいに「岬さん」と声を掛けられ、ハッと我に返る。
「最近は悩みとかないっすか」
「…悩み……」
静かになったオフィスで、坂本さんは缶コーヒーを煽りながら尋ねてくる。少し生意気で、酔った時以外はクールな顔しているくせに、彼はこうしていつも私を気にかけてくれる。
何だかんだ、とても心が優しい人だ。
「……特に、ないですね」
そう答えたあとに、ちょっとした“悩み”が頭をよぎった。
でもこれは、さすがに言えない。
“どうしてキスより先はしてくれないのだろう”なんて。
「…焦らしプレイって、いいですよね」
「あー、めっちゃ分かります」
これも彼のイタズラだと思えば、むしろ萌える。けど、1日1回はフレンチなキスをしてくれるのに、その先に進めないのが、少し歯がゆい。
贅沢な悩みだ。キスしてもらえるだけでも幸せなことなのに。
「散々焦らされてから、めちゃくちゃ甘やかされたりなんかしたら…やばいっすね」
「(逸生さんが…めちゃくちゃ甘やかしてくれたら………心臓、持たないかも)」
──恋人らしく、もう少し先に進めないだろうか。