転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
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「…逸生さん」
「ん?」
取引先へ向かう車内、就業時間中であるにも関わらず逸生さんを下の名前で呼んだ私は、隣に座っている彼を上目がちに捉える。
「…逸生さんは、女性のどんな服装が好みですか?」
「え?服装?」
唐突な質問に、逸生さんは「えーどうだろうなー」と考える仕草を見せる。
「別に似合ってたら何でもいい気がするけど」
「…では、どんな服装にムラムラしますか」
「あっ…ぶね。窓に頭ぶつけるかと思った」
隣で何やらボソボソと呟いている彼に「やっぱり胸元がパックリ開いたやつですかね?」と首を傾げれば、軽く咳払いした逸生さんが「ちょ、急にどうした」と焦りの混じった声を放った。
「何となく、男性はどんな服装に反応するのか気になったので…」
「何となく…ね。てか、多分服がどうこうより、ムラムラするかどうかは相手によると思うけど」
「…相手、ですか」
なるほど、それもそうか。
逸生さんが私に手を出さない理由は、もしかして私の服装にあるんじゃないかと思ったけれど、どうやらそれは違うらしい。
いつも着ているルームウェアをそろそろ買い換えようと思ったけど…そういう問題ではないのか。
「てか急にどうした?服でも欲しいのか?」
「え?…まぁ、そうですね。普段あまりそういった買い物をしないので、たまにはいいかなーって思ったんですけど…」
「明日、何も予定なかったよな。せっかくだし、一緒に買いに行くか」
弾かれたように顔を上げれば、ゆるりと口角を上げた逸生さんと視線が絡んだ。
「俺も連れて行きたいところがあるし」
「…連れて行きたいところ?」
「うん。だから明日は1日“外勤”ってことで、予定入れておいて」
いたずらっぽく笑う彼を見て、思わずきゅんと心臓が跳ねた。
もしかしてこれは、花火大会以来のデートになるかも。逸生さんへの気持ちに気付いてからの、はじめてのデート。
「…承知しました」
慌ててスケジュールアプリを開きながら、頬が緩みそうになるのを必死に耐えた。