転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします




「逸生さん、本当にいただいてもいいんですか?」

「うん、いつも仕事頑張ってくれてるお礼」


とあるショッピング街。ショッパーバッグを提げた私は、隣で満足げに微笑む彼に「いつもいただいてばかりで申し訳ないです」と眉を下げる。


「俺が好きでしてることだし気にせず受け取って。てか荷物持つよ」

「大丈夫です、せめて自分で持たせてください」

「真面目だなあ」


逸生さんが買ってくれたのは、SNSなどでもよく見かける人気ショップのルームウェア。逸生さんは昨日、ムラムラするかどうかは服装では決まらないと言っていたけれど、少しでも彼の好みに近付きたくて、先程お店で選んでもらった。


「…大切にしますね。ありがとうございます」


こうしてプレゼントが増える度、逸生さんとの思い出が増えていく。いつか逸生さんと離れた時、これを見て彼を思い出すのかと思うと少し切なくなったけど、それよりも今は幸せの方が大きかった。


「逸生さんはどこでお買い物されますか?」

「んー、それより俺はちょっと寄りたいところがあって…紗良、ついてきてくれる?」


そういえば昨日“連れて行きたいところがある”と言っていたっけ。


「はい、どこへでもお供しますよ。では駅に戻りますか?」

「そうしようか。てかほんとにそれだけでいいのか?時間はまだあるし、他の店も回る?」

「いいえ、もう大満足です」


私の手元にある袋を一瞥した彼は「もっと買えばいいのに」と唇を尖らせる。けれど逸生さんのことだから、私が選ぶもの全てを買い与えてくれそうな気がして、これ以上買い物を続ける気にはなれなかった。

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