転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします

その後電車を乗り継いで辿り着いたのは、街の喧騒から外れた閑静な住宅街。

何も聞かず逸生さんについて来たけれど、ここに一体何の用事があるのだろう。


「着いた」


逸生さんの声で顔を上げれば、目の前には小さな平屋があった。住宅街の一角、ぽつんと一軒だけお店が紛れている。


「逸生さん、ここは和菓子屋さんですか?」

「うん。確か今年で創業80年」

「80年…凄いですね」


どうりで木造の建物がボロボロなわけだ。何度かリフォームはしているのだろうけれど、暖簾もかなり味が出ている。

店の外観をじっと見つめていれば、「おいで」と放った逸生さんはゆっくりお店の扉を開けた。彼の後ろに続いて私も中に入れば、狭い店内のショーケースに数種類のお饅頭が並べられているのが目に入った。


「ばーちゃんこんにちはー」


お店に入るなり大きな声を上げた彼は、店の奥に視線を向ける。そうすれば、暫くしてから腰の曲がったおばあさんが奥からのんびりと出てきた。

“ばーちゃん”ってことは、逸生さんのおばあさん?
でも会長の奥さんではないよね。てことは、お母さん側の祖母ということだろうか。


「ありゃ、いっくん。久しぶりだねえ」

「お、ちゃんと俺のこと覚えてんじゃん。なかなか会いに来れなかったから、もう忘れられたかと思った」


逸生さんがいたずらっぽくそう言えば、おばあさんは「いっくんを忘れるわけないでしょ」と目尻に皺を寄せた。

逸生さんを“いっくん”と呼ぶ彼女は、一体誰なのだろう。

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