転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
「いっくん、お友だち連れてきたの?今日は大山くんじゃないのね」
「小山な。ちなみにこの子は友達じゃなくて彼女ね」
「あらまあ。可愛らしい子を捕まえて…婆さん嬉しいわあ」
“秘書”ではなく“彼女”と紹介した彼に焦りを覚えた私は、慌てて逸生さんの裾を引っ張り「逸生さん!」と小声で訴えかける。
けれど彼はそんな私を余所にへらりと笑うと「大丈夫、ばあちゃん誰にも言わないから。てかそのうち忘れるし」と簡単に返してきた。
彼の楽観的な性格に救われることもあるけれど、今回は焦りしか感じない。思わずじろりと睨めば、逸生さんは「怒んなって」と眉を下げて笑った。
「あ、そういえばこの人が誰なのか教えてなかったな」
逸生さんは思い出したようにそう放つと「ここはじいちゃんが会社を設立した時からお世話になってる店で、この人はじいちゃんの古くからの友人なんだ」と教えてくれた。
「会長のご友人?」
「うん、腐れ縁みたいなやつ。ちなみにじいちゃんはこの店の饅頭がお気に入りで未だによく買って食べてるし、会社でも手土産を用意する時によくこの店を利用してる。俺も昔はよくばーちゃんに世話になったから、たまにこうして会いに来るんだよ」
「そうだったんですね」
「紗良が入社してからは時間が取れなくてなかなか来れなかったけど、今日久しぶりに会えて良かった」
そう紡ぎながらおばあさんを見る彼の目は、とてもあたたかく優しい。逸生さんがおばあさんを慕っているのが伝わってくる。
逸生さんは昔、心を開ける人があまりいなかったと聞いている。でもこのおばあさんは、その数少ない中のひとり。
恐らくここは、逸生さんにとって心が安らぐ場所。そう思うと、何だか私まで嬉しくなった。