転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
「いっくん、優しい顔になったもんねえ。昔はいつもムスッとしてて、こわい顔でお饅頭食べて」
「ばーちゃん、昔話はいいから」
「でも心は優しい子だから、よくひとりでここへ来ておじいちゃんにお饅頭買って帰ってあげてたのよね。あの頃のいっくん、ほんと可愛かったわあ」
「もうその話50回は聞いたっての」
照れくさそうに放つ彼を見て、思わずほっこりしてしまう。
昔の逸生さんの話を聞けて、何だか得をした気分だ。
「おじいちゃんも喜んでるでしょ。立派に育って、自分の会社で働いてくれて」
「さあ、どうだろうな」
「ふふ、照れなくていいのよ。この子は自分の会社を大きくしてくれる気がするって、ずっと期待していたものね」
そうだったんだ。会長と逸生さんの絆が深いのは、何となく想像出来ていたけれど。私が思っているよりも、もっともっと強いものなんだろうな。
「あ、そうだいっくん。せっかくだからあの人にお饅頭持って帰ってあげて?」
「あ、うん。勿論そのつもりで来た。あとオフィスのメンバーにも買って帰ろうかと」
「買う?何言ってんの、お金なんていいのよ。わざわざ会いに来てくれたんだから、交通費ってことで」
「そっちこそ何言ってんの。駄目だって領収書も欲しいし」
「あらやだ、しっかりし過ぎて可愛げがないわ。年寄りをいじめないで、黙って持って帰りなさい」
「ほんと頑固なばーちゃんだな」
あの人というのは、会長のことだろうか。逸生さん、会長に買って帰ってあげる予定だったんだ。ほんとおじいちゃんっ子なんだな。
ていうかこのふたりのやり取り、まるで血の繋がった祖母と孫のようで何だか可愛い。見ているだけで心があたたまる。
「いいから持って帰りなさい。期限が切れてると思えばいいじゃない」
「それはそれで問題だろ」
…どうしよう。笑っちゃいそう。