転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
「紗良、このままじいちゃんのとこに寄ってもいい?」
「え、今からですか?」
店を出てすぐ逸生さんにそう尋ねられ、思わず足を止めた。
だって、今から?ルームウェアの入ったショッパーバッグを持って、会長のところに?
「えっ…と、一度帰宅してからではダメですか」
「じいちゃん家、ここから近いんだよ」
「……」
そういえばさっき、おばあさんが言ってたな。逸生さんが幼い頃、ひとりでお店に来て会長のためにお饅頭を買ってたって。
てことは、本当にすぐ近くに会長の家があるってことなのだろう。
「…こんな格好で大丈夫ですかね。せめてこの荷物をコインロッカーに…」
「そんな畏まらなくて大丈夫だって。会長っていっても、最近はずっと家でのんびりしてるだけのただのじいさんだから。まあすぐに脱走する元気な年寄りだけど」
逸生さんの話を聞く限り、会長はユーモアがある優しい人なんだと思うし、逸生さんを大事にしてくれた人に会ってみたい気持ちはある。
会長の前で逸生さんはどんな顔をするのだろうって、もっと新しい逸生さんを知りたくなっている自分がいる。
…せっかくだから、ついて行こうかな。
「渡したらすぐ帰るから。いい?」
「…分かりました」
小さく頷くと、逸生さんは「ありがと」と破顔した。会長に会えるのが、相当嬉しいみたいだ。
「あ、そうだ。この公園突っ切って行こう」
逸生さんが指を指した方に視線を向ければ、一面に芝が敷かれた広い公園があった。色々な種類の遊具の他に、いくつか大きな木が生えているのが見える。
もう秋だから、だいぶ枯れてはいるけれど。あたたかい季節に来たら、きっと緑が綺麗な公園だ。