転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします

「きちんと整備された公園ですね」

「うん、いい場所だろ。この辺は住宅街だし、休日は大勢の子供が遊びに来るよ」

「そうなんですね。逸生さんもよく来てたんですか?」

「…うん、まぁな」


今日は平日だからかあまり人はいないけれど、遊具もたくさんあるし、子供でもかなりの時間が潰せそうだ。

そっか、逸生さんもここで遊んでたんだ。遊具ではしゃぐ逸生さんを、私も見てみたかったな。


「なぁ紗良」

「はい」


隣を歩く彼に声を掛けられ、弾かれたように視線を上げた。「ちょっと聞きたいことがあるんだけど」と紡ぐ逸生さんは、キョロキョロと公園を見渡している。


「紗良って、木登りが得意だったりする?」

「え?…そうですね、得意ってわけではないですけど、小さな木なら登れますよ。あ、この公園の木なら登れそうな気がしますね」


突拍子もない質問に最初は戸惑ったけれど、いま丁度視界に入った木が登りやすそうだったため、その木を指さしながら答えれば、逸生さんは「…だよな」と呟きながら目を細めた。


“だよな”ってどういう意味だろう。
まるで私が木に登れることを知っているような言い方だ。それとも「俺もあの木なら登れるよ」ってことなのかな。


「でもさすがにこの歳で木登りはしねーよな」

「そうですね。木に何かが引っかからない限りは…」


ん?待てよ。昔どこかで、木に何かが引っかかって…それを取るために木に登った記憶が、あるようなないような。

…ダメだ、はっきりと思い出せないや。

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