転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします


「そういえば、先程のおばあさんはおひとりでお店を?」

「ううん、稲葉(いなば)さんは息子が跡を継いでるよ。さっきはひとりで店番してたみたいだけど、もうだいぶボケてきてるからな。いつもは息子夫婦が店にいる」


逸生さんの言う通り、物忘れが激しくなっているのは何となく伝わってきた。でも久しぶりに会った逸生さんのことはちゃんと覚えていたから、ふたりはとても深い仲なんだと思う。

昔は荒れていたと言われる逸生さんが、こんなにも包容力のある優しい人になったのは、会長や稲葉さん、小山さんのように、あたたかい人達に囲まれていたからなんだろうな。


「…素敵な方でしたね」

「うん、そうだろ。てかばーちゃん、ずっと紗良のこと“奥さん”って呼んでたし、やっぱ俺らカップルに見えんだな」

「逸生さんが、最初に“彼女”って紹介するからじゃないですか。めちゃくちゃ焦りましたよ」

「はは、ごめんごめん。ばーちゃんには嘘つけなくて」


ごめん、なんて言いながらいたずらっぽく笑う彼は、続けて「手、繋ぐ?」と意地悪な発言をする。


「変なこと言わないでください。もしそんなところ会長に見られたりしたら…」


「あれ、そこにいるのはもしかして逸生か?」


────!!!??

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