転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
「あ、あの会長」
タイミングを見計らって声をかければ、会長の視線が此方に移り、目が合った瞬間思わず息を呑んだ。
逸生さんは会長のことを“ただのじいさん“だと言っていたけど、やっぱりどこかオーラがあるというか、会長だと思うと緊張してしまう。
「君は…はじめましてかな?」
「はい。4月から専務の秘書をしております、岬と申します」
「岬…さん?」
ぎこちなく言葉を紡けば、会長はじっと食い入るように見つめてくる。
さすが会長…私が秘書としてつかえる人間なのか、この一瞬で見極めているのかも。
「はじめまして。ご挨拶が大変遅れてしまい、申し訳ありません」
「あ、いやいや、私も最近はたまにしか会社に顔を出さないから仕方ないよ。それより、もう仕事には慣れたかな?」
「はい、だいぶ慣れてはきました。専務には大変お世話になっておりまして…」
「むしろ世話になってんのは逸生の方だろ。ほんとこの男はひねくれ坊主だからなあ」
はははーと声を上げて笑う会長を見て、逸生さんは「うるせえよ」と唇を尖らせる。
「でも人懐っこいところもあるし、優しくて良い男だろ?そこだけは私に似たんだよ。あ、あと顔が整ってるところも。あれだよ、あれ。かく…かくせ…何とか遺伝ってやつだな」
「隔世遺伝な」
「そうそう、それそれ。ちなみに髪質も似てるんだぞ。ほんと逸生は昔っからじいちゃんっ子で、可愛い奴なんだよなあ」
なぁ逸生。と笑いかける会長に、逸生さんは「よく喋るじいさんだな」と眉根を寄せる。でも私の目に映る逸生さんは、どこか嬉しそう。