転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
「まぁ、何か困ったことがあったらいつでも私に言いなさい。って言っても私はもうすぐ退くけど、少しくらい力にはなれると思うから」
今日会ったばかりの、しかも新人の社員にそんな優しい言葉を掛けてくれた会長は「お饅頭ありがとう」と目を細めると、踵を返し私達に背を向けた。
そして本当に時間に余裕がなかったのか、会長は一度も振り返ることなく早歩きで進んでいき、あっという間に姿が見えなくなってしまった。
「紗良、ついて来てくれてありがとな」
「いえ、むしろ連れてきてくださってありがとうございました。とても楽しい時間を過ごせました」
私の言葉に、優しく目を細める逸生さん。その表情はとても穏やかだ。
きっと会長や稲葉さんに会えて嬉しかったのだと思う。逸生さんが喜んでくれて、私も嬉しいな。
「今日はこのまま直帰しようか。小山に伝えとく」
「はい、分かりました」
「………手、繋ぐ?」
「それはダメです」
「だよな」
・
「逸生さん、どうですかね」
夕飯とお風呂を済ませ、昼間逸生さんに買ってもらったルームウェアを早速着てみる。
おずおずとリビングのドアを開け、ソファに座っている逸生さんに声をかけると、彼は私を視界に入れた瞬間、ふわりと目を細めた。
「すげー似合ってる」
「…良かったです」
彼にプレゼントしてもらったのは、ワンピースのルームウェア。色や柄は逸生さんに選んでもらったけど、形は私が選んだ。
だって、ムラムラを意識してVネックにしたかったから。
「まぁ紗良は何着ても似合うけどな。マジでめちゃくちゃ美人」
…ねぇ、何でそんなに甘い台詞を吐くの。何だか私の方がムラムラしちゃいそうだよ。