転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
「てか紗良らしくないな。珍しく自信なさそうじゃん」
「そ、そうですかね」
「どした?いつもなら“似合って当たり前です”とか言いそうなのに」
「私をどんなキャラだと思ってるんですか」
まぁ、確かに言いそうだけど。
でも、世間一般から見て似合っていても、逸生さんがそう思わなければ意味が無い。逸生さんに良く思ってもらいたくて新調したのだから。
だけど、前までの私なら絶対にこんなこと思わなかった。好きな人の前だと、こんなにも調子が狂うのか。
どうやら恋というのは、人を臆病にするらしい。
「よし、寝るか」
伸びをしながら立ち上がった彼に、ドキリと心臓が跳ねた。
ついに運命の時。最後までいかなくても、せめて少しだけでも進展したい。
「今日はよく歩いたな。足、疲れてねえの?」
「そうですね、パンプスなので少し疲れましたが、全然耐えられる程度です」
「あーそっか、確かにあの靴は疲れそうだな。やっぱ車で移動すればよかったか。ごめんな」
「いえ、逸生さんと電車で行動するの、新鮮で楽しかったですよ。あ、逸生さんの足、私がマッサージしましょうか」
「………いや、それはそれで色々としんどいから気持ちだけ受け取っとく」
「?」
バタン、と大きなベッドにダイブした逸生さんは、早速とろんと眠そうな目をして「おいで」と手招きする。
その仕草にキュンとしながら逸生さんの隣に寝転がれば、彼は頬杖をつき、空いた手で私の黒髪を指に絡め「俺は仙人だから」とよく分からない台詞を呟いた。