転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします


「…話が唐突過ぎて何から突っ込めばいいのか分かりません」

「まぁ、そうだよな」


名刺に視線を落としたままポツリと呟けば、九条と名乗る男は「とりあえず秘書はずっと探してて」と淡々と話し始める。


「今は他の社員にスケジュール管理とか任せてるんだけど、ソイツがいい加減自分でしろってうるさくて」

「え、専務にそんな口を利く人がいるんですか」

「俺のいるとこ、結構アットホームだから。皆優しいし楽しいよ」

「アットホーム…?」


大きな会社って、オフィスの空気は重く、規則などが厳しいイメージだった。そもそも、専務って一般社員と同じ室内にいるものなの?

アットホームな雰囲気…想像するのが難しい。


「で、紗良は何となく口が堅そうだし」

「口が堅いんじゃなくて、友達がいないから話す人がいないだけです」

「それに見た目も秘書っぽい」

「確かに秘書って美人のイメージありますけど、私は秘書なんてしたことないですよ。きっとお役に立てません」

「大丈夫。はじめは出来なくて当たり前なんだから、少しずつ覚えていけばいいよ」

「それはそうですけど…」


あれ、もしかして言いくるめられている…?


「あの、秘書がほしい理由は分かりました。でもその後の恋人っていうのは何なのですか。どちらかというとそっちが引っかかります」


このまま話を進めたら負けてしまいそうで慌てて話題を変えれば、私を見下ろす九条さんの目が、微かに揺れた気がした。


< 18 / 324 >

この作品をシェア

pagetop