転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
「…話が唐突過ぎて何から突っ込めばいいのか分かりません」
「まぁ、そうだよな」
名刺に視線を落としたままポツリと呟けば、九条と名乗る男は「とりあえず秘書はずっと探してて」と淡々と話し始める。
「今は他の社員にスケジュール管理とか任せてるんだけど、ソイツがいい加減自分でしろってうるさくて」
「え、専務にそんな口を利く人がいるんですか」
「俺のいるとこ、結構アットホームだから。皆優しいし楽しいよ」
「アットホーム…?」
大きな会社って、オフィスの空気は重く、規則などが厳しいイメージだった。そもそも、専務って一般社員と同じ室内にいるものなの?
アットホームな雰囲気…想像するのが難しい。
「で、紗良は何となく口が堅そうだし」
「口が堅いんじゃなくて、友達がいないから話す人がいないだけです」
「それに見た目も秘書っぽい」
「確かに秘書って美人のイメージありますけど、私は秘書なんてしたことないですよ。きっとお役に立てません」
「大丈夫。はじめは出来なくて当たり前なんだから、少しずつ覚えていけばいいよ」
「それはそうですけど…」
あれ、もしかして言いくるめられている…?
「あの、秘書がほしい理由は分かりました。でもその後の恋人っていうのは何なのですか。どちらかというとそっちが引っかかります」
このまま話を進めたら負けてしまいそうで慌てて話題を変えれば、私を見下ろす九条さんの目が、微かに揺れた気がした。