転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
12.すれ違い
「このお饅頭、久しぶりに食べたけどやっぱ美味しいいいい」
「昔から変わらない味よね。私も大好きよ」
休憩時間、昨日稲葉さんのお店で買って帰ったお饅頭をオフィスのメンバーに配れば、百合子さんと古布鳥さんが嬉しそうに顔を綻ばせた。
「岬ちゃんも食べてる?どう?美味しいでしょ」
「はい、程よい甘さでしつこくなくて、癖になる味でいくらでも食べられそうです」
「食リポ?」
百合子さんの問いかけに正直に答えれば、なぜか怪訝な顔をされた。人付き合いって難しい。
「失礼します」
黙々とお饅頭を食べてた矢先、突然オフィスに入ってきた若い男の人が「休憩中にすみません」と気まずそうに頭を下げた。
それに気付いた古布鳥さんは、食べかけのお饅頭をデスクに置き、慌ててその人のところへ駆け寄る。
「あら加賀さん、お世話になっております。ごめんなさいね、呑気にお饅頭食べちゃって」
「いえ、こちらこそお邪魔してすみません。書類をお持ちしただけですので、すぐに帰ります」
「わざわざありがとうございます。あ、よろしければ加賀さんもおひとついかが?甘いもの食べられるかしら」
「あ、これ有名なお饅頭ですよね。ありがとうございます、いただきます」
ふたりのやり取りを自席から眺めていれば、百合子さんが小声で「加賀さん、相変わらず男前」とうっとりしながら呟く。
隣にいるイノッチさんが明らかに傷付いた顔をしたけれど、百合子さんは気にせず「ほんと色気がやばいわ」と続けた。
「(色気…?)」
百合子さんの言葉を聞いて、再び加賀さんという人に視線を向ける。
…確かに、色気があるかも。