転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
「古布鳥さん、今の方は…」
「あら、岬さんは初めてだったかしら?加賀さんは会計事務所の方よ」
加賀さんという人がオフィスから出て行ったあと、すかさず古布鳥さんに尋ねれば「彼、男前でしょ」とドヤ顔を向けてきた彼女は、食べかけのお饅頭を口に入れた。
なるほど、会計事務所の人だから経理の古布鳥さんとやり取りをしていたのか。
「この会社ではやっぱ専務がイケメンだけど、加賀さんも負けてないよね。色気が凄いから、加賀さんに抱かれたいって言ってる社員が結構いるんだよ」
「抱かれたい…」
「でも左手の薬指に指輪してんのよね。だから誰も声をかけられないんだけど、堂々と指輪してるところもまた素敵よねー」
百合子さんが顔を赤らめながら説明する横で、イノッチさんの顔が死んでるのが気になったけれど、もっと気になったのは、あの言葉。
「…“抱かれたい”って思われるには、どうすればいいんですかね」
「え、急にどうしたの岬ちゃん」
ぽつりと呟いた私に、すかさず反応したのは百合子さん。遅れて「詳しくどうぞ」と、私の隣の席に腰を下ろした古布鳥さんは、前のめりになって見つめてくる。
「…いや、その、男の人が“抱きたい”って思う女性って、どんな感じなのかと…」
「とても興味深い質問ね。岬さん、あなた迫られたい相手がいるのね?」
「迫られたい…そうなるんですかね」
「岬さんみたいなお色気ムンムンな女性を襲わない男がこの世にいるなんて考えられないけど、中には変な性癖の男もいるからね」
「変な性癖…」
「ちなみに、今までどんな攻撃を仕掛けて失敗したの?」
「えっと、実はまだルームウェアを変えたくらいなんですけど…」
「なるほど。ちなみにどんなルームウェア?」
「Vネックのワンピースです」
「甘いわね。攻めが甘すぎるわ」
こういう話が大好きな古布鳥さんは、矢継ぎ早に質問攻めしてきたかと思うと、私の答えを聞いて「はぁ」と大袈裟に溜息を吐いた。