転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
すぐそばにあるガラス張りの会議室に入ると、逸生さんはすぐにブラインドを閉めた。途端に密室感がアップして、会社だというのにドキドキしてしまう。
「で、さっきのってどういう意味?」
席につくより先に開口一番そう尋ねてきた逸生さんは、射抜くような視線を向けてくる。そこにいつもの笑顔はなくて、寧ろ怒りを孕んでいる声音に思わず息を呑んだ。
「さっきの、とは」
「好きな人がいるってなに?てかお見合いするなんて聞いてないけど」
「……」
まさか会社でその話題に触れてくるとは思わなかった。あんなの、軽く受け流してくれればよかったのに。
でも、どうして怒られているのかが理解出来ない。偽物であっても、恋人なら隠し事をするなってことだろうか。
「…すみません」
口をついて出たのは謝罪の言葉だった。
イノッチさんの勘違いだと嘘をつこうかとも思ったけれど、嘘を重ねれば重ねるほど自分を苦しめるだけのような気がしたから。
それに正直に謝ればすぐに許してもらえると思った。それなのに、私の言葉を聞いた瞬間、私を見下ろす逸生さんは大袈裟に深い溜息を吐いた。
「何で黙ってた?」
「……」
より不機嫌になった彼を見て、言葉を詰まらせる。
私だって好きで隠していた訳じゃない。“好きな人はあなただからです”なんて言えるわけがないから、こうして黙っておくしかなかった。
それにお見合いの件に関しては逸生さんが婚約した後の話だから、別に言う必要はないと思っただけだ。