転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
「…お見合いは、父が決めたことで…」
「ああ、何だっけ。坂本龍馬みたいなやつじゃないと付き合いは認めてもらえないんだっけ」
「…そうですね」
「もしかして、紗良の好きな人ってりゅうまってやつ?」
「え?」
彼の言葉に、耳を疑った。
「どうして今坂本さんが出てくるんですか」
「だって、最近やたらと仲良いじゃん」
「確かに仲は良いですけど、そこに決して恋愛感情はないです。そういうのじゃなくて、坂本さんは私の…」
ドM仲間だから、なんて言えなかった。そもそもお互いドMだというのは、私と坂本さんのふたりだけの秘密。私から秘密にしようと提案したのに、こんなところでバラすわけにもいかない。
「…ただの友達です」
苦し紛れの言い訳をしたせいか「ふうん」と返す逸生さんは全然納得出来ていない様子だった。今までになく冷たい彼に、いくらドMの私でもさすがに怯んでしまう。
でも、どうして私がこんなにも責められなきゃいけないのかがよく分からない。逸生さんだって、私と付き合っておきながら他に婚約者がいて、あと数ヶ月もすればあっさりとそっちに行ってしまうくせに。
「…専務こそどうなんですか」
「え?」
「好きな人、出来ました?」
反撃するように逸生さんの話題に変えれば、彼の眉がピクリと反応した。
言い方を紛らわしくしてしまったけれど、要するに「婚約する相手は決めたのか」ってこと。
本当はこんな話、彼の口から聞きたくもないし逸生さんが誰と婚約するかなんて知りたくもない。でも、咄嗟にこの反撃方法しか思い浮かばなかった。
けれど、
「好きな人、いるよ」
「…え?」
「昔からずっと想ってる人がいる」
反撃どころかカウンターを食らい、質問したことを酷く後悔した。
“好きな人、いるよ”
心臓が、抉られたように痛い。
逸生さんの口から迷いなく放たれた言葉は、私の胸に深く突き刺さった。