転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
「…昔からって、なんですか。それこそ聞いてないですよ」
“今まで誰かを好きになったことがない”
私達が出会った日、逸生さんは確かにそう言った。
それなのに、昔から想っている人がいるってどういうこと?黙ってたのはそっちの方じゃん。
他に好きな人がいるなら、何でその人に恋人役を頼まなかったの。私はあの時、そうしてくださいって言ったのに。
「…逸生さんだけ、狡いです」
ダメだ、泣きそう。もう何がなんだか分かんない。
別に逸生さんに他に好きな人がいたって、私には関係のない話なのかもしれないけれど。
逸生さんだって嘘をついていたのに、私だけ責められるのがどうしても納得出来なかった。
「紗良、俺は…」
「あ、別に相手が誰かなんて聞いたりしないので安心してください。自分から聞いておいてアレなんですけど、別に人の恋愛話に興味はないですし」
「……」
「お互い他に好きな人がいて、でもそれは叶わない恋で。逸生さんはもうすぐ婚約するし、私もお見合いする。それまで傷を舐め合うように一緒にいるのも、悪くないかもしれないですね」
「……」
「ていうか、こんな話をしても暗くなるだけなので…もうこの話題には触れないことにしませんか」
彼の言葉を聞くのが怖くて、平静を装いながら矢継ぎ早に言葉を放てば、私を見下ろす逸生さんは何故か傷付いた表情をしていた。
どうして逸生さんがそんな顔をするのか気になったけれど、でもそれ以上に早くこの場から立ち去りたくて「打ち合わせは以上ですよね」と勝手に出口に向かおうとすれば、逸生さんは「待って」と私の腕を掴んだ。