転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
「そっちは深く考えなくていいよ。俺、1年後に結婚するし」
「へえ…………へ?!」
さらりと放たれた爆弾発言に、思わず大きな声が出た。目を丸くする私を見て「いい反応するな」と笑った彼は、そのまま続けて口を開く。
「政略結婚ってやつ?今は婚約者候補の中からどの人と結婚するか選んでるとこ。だから1年間の期限付きだし、安心して」
「安心って…え?」
九条さんはつらつらと簡単に紡いでいるけれど、全然安心出来る内容ではないことは確かだった。
まだ相手が決まってないにしろ、婚約者がいることには間違いないのに恋人を作るのはアウトなんじゃ
…。
「ごめんなさい。やっぱり理解出来ないです」
「うーん、簡潔に言えば、1年でいいから俺の恋人になってほしいってことなんだけど」
「いやダメでしょ」
悪びれる様子もなく提案してくる彼に思い切り首を横に振れば、九条さんは「なんで?」と首を傾げる。
「なんでって、そんなの婚約者候補の方々に申し訳ないし、もしそれが周りにバレたら社会的に抹消されませんか?」
「でもまだ相手は決まってないから浮気でも何でもないし、悪いことしてるわけじゃないと思うけど」
「浮気みたいなものじゃないですか。私はそんな罪悪感背負えません」
「別に政略結婚なんか会社のためにするだけで、お互いそこに気持ちなんかないし。相手も籍さえ入れられたら文句言わないだろうし、深く考えなくても大丈夫だろ」
「何でそんなに楽観的なんですか。たとえ九条さんに気持ちがなくても、お相手の気持ちは分かりませんよ」
「気持ちなんかある訳ねえよ。どこの人間も“九条”が手に入ればそれでいいんだから」
九条さんの口調が、心做しか強くなった気がした。一瞬、寂しげに揺れた瞳を、私は見逃さなかった。
それを見て思わず言葉を詰まらせた私に、九条さんは一歩距離を詰めてくる。